院内勉強会は満席、それでも患者は増えなかった——狙った相手は、その場にいなかった
「おっかしいなー、なんで増えないんだろう? あれだけ来てくれたのに」
勉強会を開催したとき、待合室の椅子は人で埋まりました。参加された方の反応も良く、話す側としては手応えを感じました。
けれど想定とは違って、患者さんは思ったほど増えませんでした。
勉強会は、思いつきで始めたことではありません。診療圏に患者さんが何人いるのかを自分なりに見積もり、狙いを定めたうえで行いました。それでも外れました。正直なところ、その理由は今もはっきりとは分からないのです。
今回は増患対策のリアルをお話しします。
診療圏に患者さんが何人いるのか、自分で見積もった
承継後しばらくして、私は感染症だけではなく生活習慣病も幅広く診る形へ、舵を切りました。それまで診てきた患者さんはそのままに、診る幅を足していく方針です。
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方針は決めたものの、自院の診療圏に高血圧症・糖尿病・脂質異常症の患者さんが何人いるのか、まったく把握していませんでした。
私は市場調査の専門家ではありませんし、コンサルタントに頼む余裕もありませんでした。そのため、ネットで手に入る情報を使い、自分で見積もることにしました。
やったことは単純です。国勢調査から診療圏の年齢別・性別の人口を出し、そこに健診で公表されている有病率を掛けました。
しかし当時ネットには、自院のある地域の健診データが見当たらず、仕方なく東京都のデータで代用しました。地方にある自院に東京の有病率を当てはめるのが乱暴だということは、承知していました。それでも、ほかに参考にできる情報が手元になかったのです。
推定した診療圏の患者数のうち、実際に当院へ通っている患者さんが占める割合を、3疾患で並べてみると、脂質異常症だけが高血圧症・糖尿病より低く出ました。差にあたる人たちは、他院へ通院中かもしれませんし、そもそもどこにも通っていないのかもしれません。
それでも、出てきた推定値をもとに対策を立てることにしました。
「脂質」とは言わずに、脂質の話をした
行ったのは、冒頭の患者さん向け勉強会でした。場所は自院の待合室でした。
テーマの選び方には工夫を凝らしました。脂質異常症だけを取り上げても、聞く側にはピンとこないだろうと思ったのです。そこで、テーマには心臓病や脳卒中を選び、その中で脂質の管理がなぜ大切なのかを説明する形にしました。
脂質異常症は、症状のないまま動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳梗塞につながります。であれば、入口の検査値からではなく、出口のほうから話を始めたほうが届くのではないか。当時はそう考えました。
私は高次医療機関で心筋梗塞や脳梗塞の患者さんを多く診てきたため、脂質異常症対策の重要性を痛いほど認識していました。このことを多くの人に知ってほしい。そういう思いもありました。
参加者は毎回15人ほどで、待合室の椅子は埋まりました。伝え方は工夫しているつもりでしたし、実際、その場では手応えもありました。
来てくれたのは、すでに通っている人だった
ところが回を重ねるうちに、来てくださるのが毎回ほぼ同じ顔ぶれであることに気付きました。そして、その方々はすでに当院にかかっている患者さんでした。
一方で、狙いを定めていたはずの脂質異常症の患者さんは、期待したほど増えませんでした。
なぜ届かなかったのか、理由は今もはっきりとは分かりません。ただ、考えられることはあります。
自分から勉強会に足を運ぶ人は、その時点ですでに治療が必要だと認識しているのでしょう。そして、そう認識している人はたいてい、すでにどこかを受診しているのではないか。
そうだとすると、私が届けたかった相手は、はじめからその場にいなかったことになります。アプローチすべきだったのは勉強会に来ている人ではなく、来ない人のほうでした。
このことに気付いたのは、だいぶ経ってからでした。当時はただ頭の中に「???」が渦巻いていました。
それでも、勉強会そのものが無駄だったとは思っていません。すでに通ってくださっている方に、ご自身の病気について知ってもらう機会にはなりました。また、ある方法が通用しないと分かったことも、やってみなければ得られなかったものです。
来てくれる人に向けた対策は、いちばん届けたい相手には届かない。少なくとも、私の場合はそうでした。次の一手を考える必要がありました。
来ない人に届く経路を探した
来ない人にどう届けるか。次に試したのは、パンフレットを自分で作り、待合室に置くことでした。ここでも「脂質異常症」とは題さず、メタボリック症候群対策という入口にしました。
狙いは、受診した患者さんが、それを家族や友人・知人に持って行ってくれること。自分から来ない人に、すでに来てくださっている患者さんを経由して届ける。そんなふうに考えました。
もっとも、効果があったかどうかは、やはり分かりません。ただ、このパンフレットを説明に使いたいので多めに持ち帰りたい、という趣旨のお申し出を、何人かの方からいただきました。
その後、脂質異常症の患者さんは、じわじわと増えていきました。手作りのパンフレットを置き始めた頃、メディアで脂質異常症が取り上げられる機会も増えていました。届く範囲の広さを考えると、そちらの影響が大きいだろうと思っています。
増患というのは、こちらの思いどおりにはならない。数字で狙いを定めても外れますし、あとから増えたときも、何が効いたのかを確かめきれない。それが悩ましいところです。
それでも何か対策を打つ必要はあると思っており、今も試行錯誤を繰り返しています。
まとめ:この経験で見えたこと
- 私は、診療圏に患者さんが何人いるのかを、国勢調査の人口と健診で公表されている有病率から大まかに見積もった。ただし、手元にない地域のデータで代用した推定は粗い。私の場合、地方の自院に東京都のデータを当てた。
- 来てくれる人に向けた対策は、いちばん届けたい相手には届かない。待合室の椅子は埋まったが、埋めたのはすでに通っている患者さんだった。
- 自分から足を運ぶ人は、その時点ですでに治療が必要な状態だと認識していて、たいていはすでに受診しているのではないか。私はそう考えている。届けたい相手は、その場にいない。
- 増患は狙いを定めても思いどおりにならず、あとから増えたとしても、何が効いたのかを確かめきることはできない。
本記事は特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、投資判断はご自身の責任でお願いします。医療相談は行っておりません。内容には正確性を期していますが、完全性を保証するものではありません。